研究概要 |
バルク金属ガラスの過冷却液体領域での特異な安定性を微視構造、動力学的特徴から理解するために、核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR法)を用いた解析を行った。金属のNMRでは、自由電子によるナイトシフトがピーク位置、形状、緩和時間に支配的な影響を与える。ナイトシフトの温度変化、線幅の変化、緩和時間を測定し、それぞれから観測核の周囲構造、その運動性に関する情報を取り出すことを目指した。本研究では、感度の良い核種である31P,63Cuをプローブとした測定を行った。また、Mg_<65>Cu_<25>Y_<10>,Mg_<65>Cu_<25>Gd_<10>,Zr_<48>Cu_<36>Al_<8>Ag_<8>,and Zr_<65>Cu_<17>Al_<7.5>Ni_<10>組成のガラスの室温測定を行った。Pd_<40.9>Ni_<10.1>Cu_<27.5>P_<21.5>組成のガラス、過冷却液体、液体状態の31Pおよび63Cu NMRスペクトルのピークシフト(K)を決定した。31P NMRは既報のLiらによるPd_<43>Ni_<10>Cu_<27>P_<20>の測定結果と温度依存性に良い一致を見た。一方、63Cu NMRのシフト値は31Pと大きく異なる温度依存性を示した。Liらによると、ナイトシフトの温度変化は、観測原子の局所的な遥動、あるいは振動の大きさに比例し、その傾きは、ガラスと結晶で類似するが、ガラスから液体への遷移により傾きが急になる。また、その遷移温度が過冷却液体領域にあるという異常な挙動が示唆されている。今回の63Cu NMR測定結果は、リン原子と比較して銅原子でその局所的な遥動、あるいは振動の温度依存性が小さいことを示唆する。また、ガラスと液体で大きなシフト差見られ、Cu周囲では、ガラスから液体への変化に伴い微視的構造が変化することを示唆する。ガラスー液体の遷移温度(crossover point)は、リンと銅原子で大きく異なっていることがわかった。
|