研究概要 |
ガラス固体では,熱的ガラス転移温度に近い温度において構成原子・分子が熱揺動することによる粘弾性的挙動(α緩和と呼ばれる)が観測されるが,それよりも低い温度領域(あるいは高い周波数領域)において,それとはやや異なるメカニズムによる可逆的な力学緩和が観測されることがある.これはβ緩和とよばれ,金属ガラスにおいても最近Pd_<43>Cu_<27>Ni_<10>P_<20>合金において報告されている(Pelletierら,2002).本研究代表者がこれまで調べた結果によればZr-Al-Ni-Cuガラスにおいてはこの緩和現象は観測されず,一方pd_<42.5>Cu_<30>Ni_<7.5>p_<20>ガラスにおいては明瞭に現れる.本研究では後者におけるβ緩和をサブレソナンス強制振動法による動的剪断弾性率測定により詳細に調べた.β緩和は温度150℃から240℃の範囲では振動数10^<-3>Hzから10^0Hzに現れ,振動数スペクトルは幅は広いが対称であり,著しい非対称性を示すa緩和とは様相が異なる.今回は粘弾性モデルではなく擬弾性(anelasticity)モデルを用いて緩和時間の分布を考慮に入れて緩和スペクトルを解析した.緩和時間の逆数はアレニウス則に従い,その熱活性化パラメターは,振動数因子10^<12±1>s^<-1>,活性化エネルギー1.11±0.06 evであった.これらは結晶中の原子の拡散素過程における値と同程度であり,固体結晶における点欠陥の応力誘起再配向(短距離拡散)と同様なメカニズムが推測される.
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