研究概要 |
過冷却液体からの結晶の核生成自由エネルギーを第一原理計算から求めることができれば,アモルファス形成能や,過冷却液体からの微結晶化を制御する有力な手段となる.申請者は第一原理計算によって過飽和固溶体からの析出核生成にともなう活性化エネルギーを精密に求める手法を開発した.これを液固反応に適用することを当初考えて研究を進めたが,いくつかの課題を克服する必要があることが判明した. 固液反応における活性化エネルギーを計算するには,液相と固相それぞれの自由エネルギーの差を知ればよい.ところが,液相と固相の自由エネルギーは1次変態で独立である.したがって,少なくともどこかに基準を取った絶対値が必要となる.特にエンタルピー項は体積変化に依存した微妙な値であるが,液体において平衡体積を静的なモデルから解析的に定めることは不可能である.これを固体の体積-エネルギー曲線から評価できないかと第一原理計算をおこなったが,液体金属の希薄固溶エネルギーの3d遷移金属系列にわたる傾向は,見事に再現していた.しかし,固体と液体の自由エネルギーの相対的な差を再現することはできなかった. 実際の融点を分子動力学シミュレーションから求める研究はSturgeon-Lairdにより実行されている.そこでは,固体の自由エネルギーはアインシュタイン結晶から原子間相互作用に向かってスイッチを切り替えて,積分を実行している.一方,液体の自由エネルギーは理想気体から臨界点を迂回したパスで積分を実行している.このような積分計算には大きな系での動的なシミュレーションによる長時間平均の計算が求められ,市販のCPUを数台組み合わせたクラスターマシンでは年単位の計算時間が必要となる.より高速,大容量のスーパーコンピュータの利用が不可欠である。
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