研究概要 |
本研究では、ピコ秒からメガ秒に至る広い時間領域で発現する生体分子やモデル分子の階層的な動的構造を観測し、周囲の溶媒分子との相互作用で安定化される分子機構を考察した。次の5項目に関する知見が得られた。(1)生体分子周囲の自由水が生体分子をどう安定化しているのかを調べるため、ダイナミクスの平均的特性時間とゆらぎとの両方から解析する新たなフラクタル動的構造解析を行った。高分子や液晶,リポソーム,たんぱく質水溶液,皮膚,食品などに適用し、新たなキャラクタリゼーション手法としての可能性を示した。(2)分子鎖が結合水やイオンと共存する様子を観測するため、多糖類や合成高分子の水性ゲルを無極性溶媒のジオキサンで置換した。分子鎖ダイナミクスが立体障害の違いを反映する様子が観測された。(3)低温域での不凍水と生体分子の分子鎖の相互作用を調べた。たんぱく質や糖水溶液の低温域広帯域誘電分光から,ガラス転移を誘電緩和時間の温度依存性で定義でき、氷の形成する空間内で分子鎖が不凍水と相互作用してガラス転移を引き起こす描象を得た。(4)光散乱法により生体高分子の分子特性解析や階層的構造形成の動的挙動を調べた。希薄溶液で得られる1分子のサイズや形状の変化と多数の分子がつくる階層的な構造形成との関連に着目し系統的な結果が得られた。(5)生体の階層的ダイナミクスに立脚した解釈と物理的描像の構築を目指し,外場(温度勾配)を作用したときの分子間相互作用について、広帯域誘電分光(BDS)と光散乱の相補的観測を行った。分子の不可逆な拡散現象がセグメント-溶媒間の相互作用に依存する事を確認した。熱力学的非平衡系における生体高分子の構造形成や機能に関する新たな知見が得られた。
|