研究概要 |
本研究課題は、高度に酸化された四級炭素を多数含み、複雑な縮環骨格を有する天然有機化合物の効率的不斉全合成法の開発を目的としている。リアノジン(1)は、細胞内カルシウムチャネルの開閉を制御する神経毒である。1の五環性骨格には8個の四置換炭素が存在し、その全合成は挑戦的な課題である。前年度までに、ラセミ体のビシクロ[2.2.2]オクタン骨格から、リアノジンの鍵構造となるC_2対称トリシクロ[3.3.2.0^<2,6>]デカンの合成に成功した。本年度は、光学活性なビシクロ[2.2.2]オクタン骨格の合成法を開発し、リアノジン不斉合成の基礎を築いた。さらに、トリシクロ[3.3.2.0^<2,6>]デカンから、リアノジンへと変換可能な高酸化度を有する鍵中間体の合成に成功した。 光学活性なビシクロ[2.2.2]オクタン骨格の合成:2個の四置換炭素を有するビシクロ[2.2.2]オクタン骨格の不斉合成は、極めて挑戦的な課題である。様々な合成ルートを検討した結果、ラセミ体のビシクロ[2.2.2]オクタン骨格をpH7リン酸緩衝液/ジイソプロピルエーテル混合溶媒中、豚肝臓エステラーゼ(PLE)を用いて加水分解すると、99%ee以上の化合物が得られることがわかった。 C_2対称トリシクロ[3.3.2.0^<2,6>]デカンの酸化度の向上:ビシクロ[3.3.2]デカン骨格を有するジケトンをビシクロ[2.2.2.]オクタン骨格から効率的に合成した。このジケトンのα位に二つのヒドロキシ基をもつC_2対称基質を酸処理すると、α-ヒドロキシケトンのエンジオールへの異性化を経て、渡環型アルドール反応が進行し、トリシクロ[3.3.2.0^<2,6>]デカンが構築できた。得られた化合物を酸化しジケトンとした後、α-ヒドロキシル化、酸化を経て、全合成の鍵中間体となるテトラケトンの合成に成功した。
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