研究概要 |
マウス髄腔内投与により強いアロディニア誘発作用を示すアクロメリン酸の分子プローブ化に向けて,構造を単純化するためピロリジン環部4位のピリドンカルボン酸置換基をフェニルチオ基に置換した新規類縁体(PSPAと命名)を設計した。化合物の合成は,まず,4-ヒドロキシプロリンを出発物質とし,Baldwinらの手法に改良を加えた合成系路により3位にカルボキシメチル基を持つ4-ヒドロキシプロリン中間体を調製した。続いて,この中間体どトリブチルポスフィンを用いたジフェニルジスルフィドとの光延型カップリング反応により,4位にフェニルチオ基を導入した。最後に,塩酸中加熱することにより脱保護し,目的とするPSPAを得た。この化合物をマウス髄腔内に投与しアロディニア誘発活性を調べたところ,アロディニア誘発作用は全く認められなかった。しかし,PSPAをアクロメリン酸と同時にマウス髄腔内に投与したところ,アクロメリン酸により誘発されるアロディニアが抑制されることがわかった。この作用は用量依存的であり,アクロメリン酸と等量の用量においてほぼ50%の阻害率であった。以上の結果から,PSPAはアクロメリン酸が作用する受容体に対して競合的なアンタゴニストとして働いているものと推察された。さらに,マウスのL5脊髄神経結紮による神経因性疼痛モデルを作製し,PSPAを投与してvon Frey法によりアロディニア反応を検証した。その結果,PSPAは用量依存的に抗アロディニア作用を示すことがわかった。一方,PSPAは侵害性の痛みや炎症性の痛みに対しては鎮痛作用を示さなかった。すなわち,PSPAはアロディニアに特異的に作用を示す薬剤であることが明らかとなった。また,慢性化した神経因性疼痛では脊髄神経での神経一酸化窒素合成酵素の活性化が起こっているが,PSPAの投与によりこれが抑制されていることから,PSPAの抗アロディニア作用はグルタミン酸-一酸化窒素の経路をブロックしているものと推察された。
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