研究概要 |
21世紀に入るとともにヒトの遺伝子構造の全容が明らかにされ,現在,ゲノムから翻訳されるタンパク質の網羅的な解析を目指す大規模プロジェクトが行われている.これにより,研究対象となるタンパク質の種類も数も劇的に増える.そこで,この急速なプロテオーム解析研究に対応して,いちはやく標的タンパク質に特異的に作用する「生体機能分子」を創り出すための新技術が求められている.今回,ファージ・ライブラリーを用いた「進化分子工学」と「有機合成化学」とを融合させた新しい分子設計手法を検討した.安定な立体構造(α-ヘリックスなど)を持つペプチドから構成されるファージ・ライブラリーを構築し,その中から標的タンパク質に結合するペプチドを検索する.得られたペプチドは強固な立体構造を有するため,その構造から特異的結合に関与するアミノ酸残基の3次元構造情報を容易に入手することができる.その情報をもとに低分子生体機能分子の設計・合成を行った. (1)G-CSF受容体結合ペプチドのアラニンスキャニング:G-CSF受容体結合性ペプチドのC-末端ヘリックスの各アミノ酸残基をアラニンに置換した変異体ペプチドを合成し,受容体結合活性やヘリックス構造安定性における各アミノ酸残基の寄与を決定した. (2)分子モデリングによる結合活性残基の同定:アラニンスキャニングの結果およびペプチドとG-CSFのX線構造の重ね合わせにより,G-CSF受容体とペプチドとの結合に重要な活性残基は,Leu28,Lys29,Glu32,Leu33であることが判明した. (3)生体機能分子の設計と合成:上記のアミノ酸残基を空間的に適格に配置できれば,G-CSF受容体と結合する低分子リガンドが設計出来る.そこで,tk-56を設計し,合成した.得られた低分子化合物tk-56はG-CSF受容体に弱いながらも特異的な結合活性を有することが判明した.
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