研究概要 |
一般に酸と塩基を混ぜ合わせると互いに塩を形成するため、酸触媒としても塩基触媒としても活性が低下すると考えがちであるが、酵素は分子内に複数の酸点と塩基点を持ち、それらを協同的に機能させることにより、高い触媒活性、基質特異性、立体選択性を発現する。触媒設計の際に、酸や塩基の強さだけに頼らず、酸と塩基の組み合わせ方を工夫することによって、穏やかな反応条件で、高い触媒活性と選択性を発現させることができる。酵素同様、水素結合や非結合性の弱い分子間及び分子内相互作用を巧みに利用することが鍵となる。光学活性2,2'-ジアミノ-1,1'-ビナフチルとトリフルオロメタンスルホンイミドのジアンモニウム塩がα-(アシロキシ)アクロレインと環状ジエンとのエナンチオ選択的Diels-Alder反応に極めて有効であることがわかった。本触媒は入手容易な(市販の)弱塩基と超強酸のアンモニウム塩であり、-75℃という極低温下においても十分に反応が進行する。 α-(アシロキシ)アクロレインとシクロペンタジェンのDiels-Alder反応について検討した。幸運にも、α-[π(メトキシ)ベンゾイルオキシ]アクロレインとシクロペンタジエンの反応でexo付加体を94%eeで得た。しかし、その化学収率は48%であり、満足のいく結果とはならなかった。そこで、より塩基性の高いα-(シクロヘキサンカルボキシ)アクロレインを用いて反応を行なったところ、エナンチオ選択性は86%eeに若干低下したものの化学収率は80%まで向上した。さらに、10mol%の水を添加したところ、エナンチオ選択性は91%eeまで回復し、化学収率も88%まで向上した。 同条件下、シクロヘキサジエンとのDiels-Alder反応についても高収率、高エナンチオ選択的に付加体を得ることができた。しかし、鎖状ジエンについては中程度のエナンチオ選択性に留まっており、現在検討中である。
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