研究概要 |
筆者は,これまで"Sustainability Technology"に適合する有機合成法の開発という,本特定領域に課せられた歴史的課題に答えるべく,双方向炭素鎖伸長素子としての潜在的可能性を有しているアセチレンとその類縁体を活用する実用的分子変換に取り組んできた。基本戦略は,カルボニル化合物とアセチリドの反応で得られる付加体のTMS-エーテルとルイス酸触媒(10mol% TMSOTf)の組み合わせで得られる2-プロピニル炭素陽イオンを活用するものである。平成18年度は,基本的にこの戦略に準拠して求核剤に注目し,窒素求核剤を探索した結果,スルホンアミドを用いるピロール誘導体のワンポット合成の開発に成功した。2-プロピニル・アリル混成カチオンの生成にルイス酸を用いるため,ルイス酸をより強く配位させ,カチオン生成を阻害する窒素求核剤は使えない。事実,通常のアルキルアミンを用いると期待した反応は進行しなかった。しかしスルホンアミドは,ルイス酸の働きを阻害せず,期待した反応が一挙に進行し,ピロール誘導体がワンポットで得られた。分子内マイケル付加反応が進行するためには,スルホンアミドのN-Hの酸性度が重要である。事実,カルバミン酸ベンジルを用いると反応は中間体の段階で停止した。この中間体の分子内マイケル付加反応が進行するためには,塩基によるアミダートの生成が必要であった。 このようにして,α,β-不飽和ケトンとアセチリドの反応で得られる付加体由来のカチオンとスルホンアミドを用いるN-スルフォニル-(1,3,5-三置換ピロール-2-イル)酢酸エステルのワンポット合成法,及びカルバミン酸ベンジルを用いる相当するN-Cbz-ピロール体の二段階合成法が開発された。 なお,ヒドロキシアセトンの選択的アルキル化法及びアニオン性ディールス・アルダー反応を本課題に関連する課題として遂行し,論文を発表した。
|