研究概要 |
フラーレンポリマーはエレクトロニクス,エネルギーなどの分野で新規炭素材料の基盤分子として注目を集めている。フラーレンポリマーの合成法として,これまでフラーレンを直接重合させる方法が報告されているが,フラーレンが対象性の高い構造を有していることから,生じてくるポリマーの構造を予め設計することは極めて難しい。近年,ポリマー構造を合成する手法として,可逆的な非共有結合を利用した自己集合が注目されている。この方法は既存の有機合成では成しえないような複雑な分子配列を容易に構築できることから,超分子ポリマーの合成に利用されるようになってきた。我々は非共有結合を基盤とした自己集合が超分子フラーレンポリマーの合成に利用できると考えた。これまでカリックス[5]アレーンがフラーレン類の有効なホスト分子として機能することを明らかにしてきた。今回,カリックス[5]アレーンとフラーレンの分子間相互作用を利用して,超分子フラーレンポリマーの合成を計画した。具体的に,ダンベル型フラーレン誘導体1とフラーレン結合部位を二つもつテトラキスカリックス[5]アレーン誘導体2を設計した。1と2の連続的な包接により超分子フラーレンポリマーを合成できると考えた。 ガラス表面に1と2の1:1混合溶液から調整した組織をSEMを用いて観察を行った。観察像にはポリマーの生成を示唆する,長さ100mm以上,太さ約250-500nmの繊維状組織を確認することができた。次にマイカ表面に調製したキャストフィルムを,原子間力顕微鏡を用いて観察した。すると,細かい規則性のある均一な組織が確認された。これらの繊維は,高さ1.2nmから1.9nm,幅68nmから90nmの非常に均一な組織を形成していることがわかった。分子計算により得られたオリゴマーの構造では,アルキル鎖の長さが3.5nmとAFMより得られた繊維の高さ1.2nmより大きいことから,アルキル基はマイカ表面と平行に配列していると考えられる。また,カリックス[5]アレーンとフラーレンの包接部分の高さが1.4nmと実測の繊維の高さと非常によく一致することから,マイカ表面上で40-60本の超分子ポリマー鎖がアルキル基を絡めながら,平行に配列したフィルム状の組織が形成されていると現在考えている。
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