研究概要 |
本研究課題では、エアロジェルという多孔質媒質中の超流動ヘリウム3の相図と可能な対状態を調べることにより、スピン三重項対状態による軌道、スピン自由度がからむ多成分秩序パラメタを持つ超流動への乱れ(不純物)の効果という、超伝導体では実現できない新奇な量子凝縮相が期待される状況下にある系を理解することを目的とした。この研究プロジェクトの準備段階の調査は平成16,17年に済ませており、当初は乱れにより軌道自由度の長距離秩序を失った可能な超流動相という側面からのA-like相(高圧超流動相)の研究を行ったが、その後エアロジェルを一方向に圧縮あるいは伸張した形でヘリウム3に異方性を与えることにより、バルクの超流動状態としては実現し得ないポーラー対状態が超流動転移線近くの新たな相として実現しうることを提唱した。その結果国内外の実験グループではエアロジェルの加工に基づいた研究が行われ、新奇な相の探求が試みられている。しかし、通常等方的と考えられているエアロジェル中でも、エアロジェルによる準粒子散乱効果が元来異方的であると考えると、A-like相に関する相図の特徴を理解できると期待されるようになり、これに関係して強結合効果というA-like相を微視的に安定化する準粒子間の強相関効果を詳しく調べた。本研究課題に基づいた研究の多くがこの強結合効果の調査に費やされた。海外の他のグループによる過去の調査に依れば、強結合効果はエアロジェルの不純物散乱効果により強まるという結果が示唆されており、これではエアロジェル中でA-like相が極めて狭い温度域に限られて存在するという事実が説明できなかった。今回、我々は強結合効果への不純物効果を詳しく調べ、過去の研究で見落とされていた項が不純物依存性の傾向を逆転させることを突き止め、前述の異方性の効果と絡めて計算された相図が実験で見出された相図と類似していることを示した。
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