研究概要 |
(1)イオンの相互作用の精密解析と液体構造の解析 昨年度に引き続き,ab initio分子軌道法によるイオン間相互作用の解析を行い,TFSIと比べFSIではカチオンとの相互作用が若干弱いこと,エーテル基を導入したカチオンとLiイオンの間にかなりの引力が働くことなどを明らかにした。また,分子軌道法計算の結果に基づいて分子動力学シミュレーション用のOPLS力場のパラメータの精密化を行った。精密化した力場を使えば,イオンの種類による自己拡散係数の変化の傾向を分子動力学シミュレーションでほぼ再現できることを確認し,イオン液体中のイオンのダイナミクスをシミュレーションから予測できる可能性を示した。今後はイオン液体の合理的な設計へのシミュレーションの利用が期待される。また,芳香族分子のイオン液体による溶媒和のモデルとしてベンゼンとピリジニウムの相互作用の解析を行った。この結果,静電力と誘起力の引力への寄与が大きく,通常のπ/π相互作用よりも極めて強い引力の存在することが明らかになった。 (2)イミダゾリウム塩の結晶中の相互作用と融解シミュレーション イミダゾリウムの2位の水素とアニオンは結晶中や液体中で接触しており,この水素結合がイオン液体の物性に影響を与えていると言われていた。しかし,結晶中のイミダゾリウムとアニオンの相互作用を解析したところ,方向依存性が極めて弱く,通常の水素結合とは性質の全く異なる相互作用であることが分かった。また,分子動力学シミュレーションでイオン液体の密度の温度変化を解析したところ,融点に対応すると考えられる密度の不連続な変化が見られた。
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