研究概要 |
アリの社会が全体として適応的に制御されるのは,下位の階層である個体間のいかなる相互作用によるのか.ワーカー数認識と個体密度制御という現象にとくに注目し,内在するとフィードバック機構を解き明かすべく研究を行った.トゲオオハリアリではワーカーの産卵行動は女王との直接的身体摂食による制御される.コロニーサイズが変化してもこれが機能するのは,あたかもコロニー全体の状況を認識したかのような局所情報依存的行動切り替えにあることが,実験およびシミュレーションモデルにより示唆された.具体的には女王と3時間以上接触しなかったワーカーが自己産卵巣べく生理状態を切り替え,同時に順位行動を開始する.女王はこれら生理状態を切り替えたワーカーに巣内で接触すると,活発に歩行し女王の存在情報を伝える.たったこれだけで、コロニーサイズの変化にかかわらず繁殖に関する分業が自己組織化されるのである.また,女王認識に関与する体表炭化水素群も示唆された.ワーカーの定位行動を解発するのは炭素数23-29の女王非特異的な炭化水素群で,女王特異的な炭素数36-41め群dではないという意外な結果が得られた.また,関連事項であるポリシング,ワーカー個体の移動行動,分業比率,引っ越し行動を支配する信号物質についても研究を展開し,実ロボットによるモデル化も検討中である.特にワーカー個体の移動行動には速変化と角度変化においてある種のフラクタル性が確認され,少数のパラメータで行動を記述できることがわかり,これらはエージェントベースモデルに導入されたほか将来や実ロボットのプログラミングにも資すると考えられた.
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