研究概要 |
細胞や組織が持つ高度な生体システムを調べるためには,細胞を限りなく生体内に近い環境下で培養しつつ,様々な薬物による刺激が細胞内へそして細胞外へとどのような代謝系を介して伝搬するか,あるいはその刺激が細胞機能の発現や組織形成にどのように関与するかを総合的に分析するようなプラットホームが必要となる。 本研究では,数10μm〜数mmの微小な細胞培養チャンバと薬物・培養液などを供給するマイクロポンプによって細胞や組織の培養を行いつつ,蛍光イメージングによって細胞や組織の局所部位に与える薬物刺激の細胞内伝搬をモニタすると共に,細胞や組織の構造変化や細胞集団からの組織形成過程とその機能発現など,多彩な細胞活性のリアルタイム検出を行うマイクロデバイスの開発を目的としている。 今年度は,半透膜で仕切られた上下2つのコンパートメントを持ち,かつ各々のコンパートメント内のオンチップの灌流培養を実現する,マイクロ灌流培養デバイスを開発した。本デバイス内には各コンパートメン内の蛍光基質の検出が出来るように光ファイバの検出系も内蔵されており,オンチップで灌流培養から検出までが出来るようなシステムとなっている。 ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞の基底膜側から頂端膜側の薬剤排出機構の解明のため,本デバイス内でCaco-2細胞を培養しつつ,上下のコンパートメントに薬物排出トランスポーターとして知られるp-glycoproteinの蛍光基質であるrhodamine123を添加したところ,Caco-2細胞の極性輸送能によって基底膜側から頂端膜側にrhodamine123が極性輸送される様子が本デバイス内でリアルタイムで観測された。これまで,同一のサンプルに対しての薬物排出過程の動態を調べることは非常な困難つきまとい報告例が全く無かったが,本デバイスを用いれば長期の培養からセンシングまでをシームレスに高感度検出できることが証明された。
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