研究概要 |
近年,分子生物学におけるトランスジェニック技術や医療分野における不妊治療に代表されるように,マイクロマニピュレータの利用が増加している.機構的・精度的な改善が施されているものの,マイクロマニピュレータの操作には熟練を要し,操作性向上の必要性が指摘されている.マイクロマニピュレータの操作性向上に関する研究は,マイクロの世界を力覚的にフィードバックすることを骨子とし,活発に行われてきた.マイクロスケールでは,質量は長さの3乗,摩擦は長さの2乗に比例するので,摩擦力のほうが相対的に質量より支配的になる.したがって,支配物理則が異なる環境を忠実に再現すると,オペレータは,逆に違和感を覚える可能性がある.換言すれば,人間にとって極めて作業しにくいものになる可能性があるということである, そこで,この研究プロジェクトでは,マイクロ・ナノの世界を忠実にマクロの世界に近づける代わりに,人間をある意味で「騙して」,人間に違和感なくマクロ・ナノの世界の作業を実行させる手法を検討することを目的とする.視覚情報の拡大は容易に可能であるが,力覚情報の拡大,とくに視覚情報と関連させた拡大は極めて難しい.したがって,力覚情報を忠実に拡大するかわりに,音,振動,衝撃と言った全く人工的・作為的な情報を視覚情報に連動して人間に与える手法や,人間を「騙す」ための錯覚の利用について取り組み,基礎的なシミュレーションやデバイスの製作を通して,提案したアプローチの有効性を確認した.
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