研究概要 |
ヘム依存性転写因子Irrにおける酸化修飾機構の詳細を検討するため,典型的なペプチド鎖の酸化修飾様式であるカルボニル化を認識する「Oxyblot」法を用いて検討したところ,過酸化水素のスカベンジャー試薬であるカタラーゼを添加した際に酸化修飾が大きく阻害されることを見出した.一方,OHラジカルやO_2-のスカベンジャー試薬の添加ではその阻害効果が見られなかったことから,Irrはヘムと分子状酸素の存在下で過酸化水素を産生し,この過酸化水素によってペプチド鎖の酸化修飾反応が引き起こされることが示された.さらに,以上のような過酸化水素の産生部位を同定するために,ヘムの軸配位子と想定されるCysやHisをそれぞれAlaに置換し,その酸化修飾反応を追跡したところ,His残基が連続しているHis117,His118,His119の置換により酸化修飾反応が大きく阻害されることが示された.しかし,この変異体において産生する過酸化水素の定量を行ったところ,野生型同様の産生能を示し,過酸化水素は酸化修飾には必須であるものの,ペプチド鎖への酸化修飾反応の直接的な活性種ではないことが示唆された.づまり,Irrによって産生された過酸化水素は,再びHis117,His118,His119付近の酸化活性化部位によって,さらに活性な酸化活性種に変換されることを示唆している.以上の結果からIrrにおける酸化修飾反応は,分子状酸素から過酸化水素を経た二段階の活性化反応で進行し,そこで生成した酸化活性種が蛋白質分解の端緒となることが考えられる.
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