研究概要 |
当該特定領域研究代表者らは,牛由来シトクロームc酸化酵素の結晶構造の決定に基づいて、新たなプロトン移動経路(H-path)を見出し、Tyr440-Ser441間のペプチドグループ(すなわち共有結合)が関与するプロトン移動機構を提唱した。本年度は,密度汎関数法に基づく第一原理分子動力学計算(CPMD)を用いて, Tyr440-Ser441近傍のサイトにおけるケトーエノール互換異性化反応の可能性と、プロトン移動との関係について、電子構造に基づき解析した。その結果,この反応機構における活性化エネルギは約13kcal/molと計算され,実験結果とよい一致を示した。これは,ペプチド基を介した新規のプロトン輸送機構において,水分子などの寄与が不必要であることを示しており,月原・吉川らが提唱する,ケトーエノール互換異性化反応によるプロトン移動機構が,実際にも可能であることを示唆している。 ただしここで計算に用いた分子モデル系は,Tyr440-Ser441およびSer441-Asp442近傍の骨格を中心に抽出したものであるため,その近傍に存在する機能的に重要なCuAサイトとの水素結合や,さらにはサイト内に本来存在する芳香環同志のスタッキングなどの相互作用の寄与が考慮されていない。そこでさらに,こうした重要な相互作用および立体構造を露わに導入し,機能サブユニット全体を含めた超分子モデルの構築も本年度は推進した。このリアルなモデル構築についてもほぼ完了するに至り、今後はこのモデルを用いて、飛躍的に高精度な理論解析を進め,プロトン移動が酵素反応や電子移動とどのように共役しているのかなどの課題についても,そのしくみをさらに明らかにする試みを推進する予定である。
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