研究概要 |
チトクロム酸化酵素は分子状酸素を還元し水にするとともにプロトン(H^+)を膜内側から外側に能動輸送 (ポンプ)する膜蛋白質複合体である。 ウシ酵素のX線構造と変異体解析により我々はH-pathwayがH^+ポンプ経路であると提唱している。この経路は、水素結合ネットワークと、これと膜内側分子表面とを連結する水経路とから構成される。この水素結合ネットワークは、補欠分子であるヘムaの側鎖ホルミル基およびプロピオン酸基と水素結合をする。したがって、H^+まヘムaにより駆動されることが示唆される。今回このヘムa側鎖プロピオン酸基の役割を検証するモデル実験を実施した。ヘムbの側鎖プロピオン酸基(6,7位)が、それぞれメチル基に置換されたヘムを合成した。再構成法により6位欠損ヘムをチトクロムP450camに導入し、その機能を検討するとともにX線構造を決定した。構造変化は最小限であり、機能への影響も顕著でなかった(JACS,130,432,2008)。これまで、この側鎖は、ヘムの安定化に重要であるとともに、電子供与体からヘム鉄への電子伝達経路を形成すると提唱されていたが、上記結果は、これらを支持しなかった。側鎖欠損ヘムを利用した側鎖機能の検証が可能である。 H^+ポンプの経路と機構との研究には、H^+ポンプ過程での機能中心アミノ酸側鎖官能基の化学構造および立体構造変化を赤外分光法で捕捉することが必要である。しかし、赤外スペクトルの検出と帰属のためには、無細胞系で蛋白合成をし、機能中心アミノ酸の部位特異的安定同位体標識化が不可欠である。細菌のチトクロム酸化酵素を大腸菌の無細胞系で機能発現する研究を10年続け、本年チトクロムc酸化活性と吸収スペクトルが正常である酵素標品を得る系を確立した。この無細胞発現系では、アミノ酸残基の標識化に加え、人工ヘムの導入も可能であり、構造に基づいた反応機構研究に有効である。
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