研究概要 |
神経幹細胞は「時間とともに自らの性質を変化させる」ことによって娘細胞の多様性に寄与しなければならない.ショウジョウバエの胚中枢神経系では,神経幹細胞はHunchback, Kruppelといった転写因子を順次発現し,それを自分の「誕生の順序」の情報として分化していく神経細胞に提供する.HunchbackからKruppelへの切り替えは,転写因子Seven-up(SVP)によって制御されている.SVPはHunchbackからKruppelへのスイッチング時に一過的に発現し,切り替えのタイミングを決めている. 今年度は,神経幹細胞の細胞系譜において転写因子SVPの一過的発現はいかに調節されているかを解析した.細胞周期の進行を止める突然変異系統ではsvp mRNAが異常に蓄積することから,svppの発現をONにするには細胞周期の正常な進行は不要であるが,OFFにするには細胞分裂が必要であることがわかる.一方,第1回の分裂を行う前の神経幹細胞ではsvp mRNAは存在するがSVPタンパク質は観察できないので,SVPの発現制御には翻訳制御機構が関与することを示唆している.更に,細胞分裂を止めてsvp mRNAの異常蓄積が起こっている状況下でもSeven-uタンパク質は存在しない.したがって,細胞周期情報が翻訳制御を解してSVPタンパク質の発現を調節している可能性がある. SVPによる遺伝子発現スイッチングの分子機構を探るために,SVPが細胞運命決定に関与しているもう一つの系である複眼に着目した.この系でSVPを強制発現すると,遺伝子発現パターンに様々な変化が生じ,複眼の外見が異常になる。この強制発現系統はSVPの機能に関与する分子を遺伝的スクリーンによって検索するためのよい実験系となるだろう.
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