研究概要 |
遺伝子抑制型クロマチン因子ポリコーム群複合体は構造的,機能的に2つに大別される.クラス1複合体はヒストンH3K27メチル化活性を持つ.クラス2複合体はメチル化H3認識および遺伝子抑制を担う.本研究では、両複合体の新しい機能を同定することを目的とした. <クラス1解析>生化学的研究からクラス1の主要成分としてEzh2, Eed, Suz12,そしてRbAp48が同定されていた.我々は,Suz12-/-ES細胞の解析からSuzl2はクラス1の維持に必要であることを見出しており,一方,他研究室のin vitro実験系においてRbAp48はメチル化活性には必要ないことが示されていた.(1)Suz12-/-ES細胞にSuz12のC末保存領域を戻すことによりクラス1およびH3K27メチル化レベルは回復したが,その回復複合体にはRbAp48が含まれていなかった.これはクラス1の維持及びメチル化機能にはRbAp48は必要ないことを意味し,RbAp48の不必要性はin vivoでも証明されたと考える.(4)未分化ES細胞においてヒストンH3K9のトリメチル化レベルは野生型とSuz12-/-とで相違ない.しかし,そのレベルは分化誘導Suz12-/-細胞で低下していることがわかった.したがって,新規機能としてSuz12は分化依存的H3K9メチル化に関与しているという可能性を示した. <クラス2解析> 我々はクラス2の新規機能としてmRNAスプライシング反応と共役した遺伝子抑制を提唱していた.その主な証拠は,スプライシング必須因子Sf3b1およびSf3b2の遺伝子ノックアウトマウスはポリコーム群変異特有の背骨後方化異常を示すこと,他スプライシング因子PSFの遺伝子変異はポリコーム群変異効果を打ち消すことなどである.本研究では,この仮説を分子レベルで追求するために,新たなポリコーム群-スプライシング因子パートナーを探索した.その結果,PSFとポリコーム群の1つが同定された.興味深いことに,両者の結合はRNAを介するという結果を得た.今後,両者の結合特性および結合条件を調査することにより分子レベルでの実験的証拠を得ることができ,さらに結合に重要なアミノ酸部位の点変異ノックインマウスは,我々の主張の証明に役立つと信じている.
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