研究概要 |
低分子量G蛋白質RasのGTP結合型(Ras-GTP)には、標的との結合能力を有する"ON"状態(state2)と有さない"OFF"状態(state1)の2種類の構造が相互変換可能な状態で混在することが、H-RasなどRasファミリーに属する一部の分子の31P-核磁気共鳴法(NMR)により明らかになっている。本研究では、Rasの関与するシグナル伝達系において、stateの相互変換というRasの高次構造の多型性が果たす役割を明らかにするために、Rasファミリーに属する5種類の分子(Rap2A,Rap1A,H-Ras,RalA,M-Ras)の31P-NMRを行うとともに、GTP結合・解離反応を解析した。その結果、 1.これら5種類すべてのRasファミリー分子に2つのstateの相互変換が存在する 2.Statelの存在比率はRap2A<Rap1A<H-Ras<RalA<M-Rasの順で増加する(state2はその逆) 3.5種類のRas分子では、GTPに対する結合親和性(K_d)が極めて近い値(32〜42nM)となる 4.GTP結合・解離速度定数(K_on K_off,)はともに、Rap2A<Rap1A<H-Ras<RalA<M-Rasの順で増加する 5.2つのstateのGTP結合速度差(それぞれ100%存在すると仮定した場合)は7倍である ことが明らかになった。これらの結果は、RasのGTP結合型生成反応系において、state2に比してstate1を経由する方がエネルギー的には安定な反応系であることを示しており、細胞内でのRasのグアニンヌクレオチド交換反応においても、交換因子であるGEFの結合によつてRasからGDPが解離したのち、GTP結合の際にはstate1を経由して標的との結合に有利なstate2に構造変化する可能性が示唆された。
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