研究概要 |
cAMPはG結合タンパク質によって制御される代表的な細胞内シグナル系である。カテコラミン受容体などにアゴニストが結合すると刺激性G蛋白質の活性化を引き起こし,これがアデニル酸シクラーゼの活性化とcAMP依存性キナーゼ(PKA)の活性化を引き起こす。PKAは細胞内の多数の蛋白をリン酸化することにより機能変化をもたらし細胞機能を制御している。従来cAMPの標的分子の主体はPKAであるとされてきたが,近年Epac(Exchange Protein directly Activated by cAMP)と呼ばれるグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)がcAMPによって直接活性化されることが証明された。EpacはRapなどのG蛋白質活性を制御することが知られているが,その詳細は明らかでない。本申請ではこの新規G蛋白質活性調節分子であるEpacのcAMPシグナルにおける役割を、心血管系組織を中心に検討した。 心血管系は成長段階とともに細胞蛋白発現量あるいはサブタイプ比率がダイナミックに変化することが知られており,この変化が発育段階における心機能調節と密接な関連をもつとされる。Epacには組織分布の異なる2つのサブタイプが存在するが,これらの発現が発育段階に応じてどのように変化するのかを心臓,肺,腎臓,脳において検討したところ,発育段階および臓器によって特徴的な変化をしめすことがわかった。このことはEpacが臓器の発育に重要な役割を果たす可能性を意味する。 さらに我々は過大発現マウスを用いた実験の結果から,心筋炎などの心機能低下が知られているが,Epacがサイトカインシグナルにおいて重要な役割を果たすことがわかってきた。Epac過大発現マウスにLPS刺激による心不全を起こし,心機能を測定したところ,野生種に比較して著名に心機能の低下が予防できることがわかった。このことはEpacが心機能維持に大切な役割を果たすことを意味する。 以上の結果から,心血管系においてGTP結合蛋白はcAMPシグナルの調節を受け,心機能などの維持に重要な役割を果たすと考えられる。
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