研究概要 |
高内皮細静脈(HEV;high endothelial venule)は,血流中を循環するリンパ球と特異的に接着し,リンパ球を免疫応答の起こる場であるリンパ節へ移行させる特殊な血管である。本研究においては,HEVのユニークな分化形質を規定する細胞外環境を,HEV培養細胞株を樹立することにより解明する事を目的とする。昨年度我々は,HEV特異的硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-2の遺伝子座にEGFP(enhanced green fluorescent protein)遺伝子をノックインしたマウスよりHEV培養内皮細胞株を樹立した。この細胞株においては,EGFPの緑色蛍光を指標にしてHEV分化形質の一つである硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-2の発現を容易に検出する事が可能である。本年度,20代継代を行ったHEV培養細胞株の表面抗原の発現をフローサイトメトリーにより解析したところ,血管内皮細胞マーカーとして知られているCD31の強い発現が確認された。また,HEV培養細胞株は,血管内皮細胞に特有の敷石状の培養形態を示した。HEV培養細胞株において,GlcNAc6ST-2により生合成される糖鎖抗原であるMECA-79抗原の発現はわずかに認められるものの,ほぼ消失していた。これは,通常の培養条件においては,GlcNAc6ST-2の発現に必要な細胞外環境が欠如しているためと考えられた。そこで,HEV培養細胞株を種々のサイトカインや細胞外マトリクス分子,およびリンパ節由来の種々の細胞を含む様々な細胞外環境のもとで培養を行い,GlcNAc6ST-2-EGFPレポータータンパク質の発現を誘導する細胞外環境の検討を試みた。現在までのところ,この発現誘導に関与する細胞外環境の同定には至っていないが,本研究で新たに樹立したHEV培養細胞株は,特殊血管であるHEVのHEVらしさ(HEVness)を規定する分子機構の解明に有用であると考えられる。
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