研究概要 |
小腸の吸収上皮細胞膜上に位置し,リンの吸収を担う輸送担体をリン酸トランスポーター(NaPi)という。NaPiは多くの生物種でリンの充足度に応じてその遺伝子発現度が敏感に変化する。以前マスを用いてリン欠乏応答遺伝子の網羅的解析を行った結果,NaPiの発現が初期リン欠乏で数倍に増加することを確認し,その後の実験でも同様の応答を確認した。従って、NaPiの発現度を調べることで、その生物のリン充足度を早く正確に診断できると考えられる。このバイオマーカーをもとに飼料のリン含量を魚の最低要求量まで低減し,不用なリン排泄による環境負荷を防ぐことを最終目標として本研究を行った。NaPiの発現応答を調べるにはその塩基配列をまず知る必要があるが、魚類消化管のNaPi塩基配列は4種類の魚でしか分かっていなかった。本研究では新たに18の魚種と3種の貝類でNaPi基配列を単離することに成功した。しかし甲殻類のNaPiは何度も試みたが成功に至らなかった。NaPi塩基配列の判明した合計22の魚種のうち,系統的に大きく異なるテラピア,フナ,マスにおいてその組織分布を調べた。その結果,魚種によりNaPiの分布様式に大きな違いが見られた。低リン飼料によるアユの飼育実験を2度試みたが、いずれも冷水病の蔓延で中断を余儀なくされた。テラピアとフナに低リン飼料を給餌した結果,予測されたNaPiの発現増加はフナで確認できたものの,テラピアでは(リン欠乏を起こさず)明確な応答が見られなかった。一方,慢性的リン欠乏を誘発させたマスの肝臓において,脂質代謝に係わる一連の遺伝子を調べたところ,対照魚(リン欠乏でない)に比べて発現度に有意差は見られなかった。しかし,リン欠乏と脂質の異常蓄積は予測どおり有意な逆相関の関係が確認され,また脂質蓄積量と脂質代謝遺伝子の発現との間にも有意な相関が見られた。
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