研究概要 |
<遷移金属錯体> Pt-Br錯体において低温で低エネルギー領域まで時間分解発光測定を行ったところ,波束が低エネルギー端に来たところで異常に発光強度が増大すること,波束の主要部分が戻ると同時に,逆方向へ移動する成分があることが見出された.波束ダイナミクスの計算結果との比較により,これはポテンシャルの鞍点において波束が分裂していることを示唆し,一部が自己束縛励起子からソリトン対という準安定状態へ移行したことに対応すると結論した. Pd-Br錯体における時間分解発光を解析した結果,この物質がCDWの系であるにもかかわらず,Pt-錯体とは異なり,自己束縛励起子(STE)が過渡的にも存在しないことが判明した.また,波束は励起電子状態から一度も振動することなく電荷移動バンドギャップより低エネルギーの領域まで走ることから,パイエルス絶縁体からモット絶縁体への相転移のダイナミクスを反映していると結論された. <アルカリハライドのF中心> F中心における波束のダイナミクスを観測したところ,KC1において発光スペクトルの裾の幅と緩和の速さがピークの低エネルギー側と高エネルギー側で非対称になることを見出した.これは励起状態の準位交差を反映した非常に大きな非調和性に起因すると思われる.これは準位交差のある系における波束ダイナミクスの例として光誘起相転移の解明にも重要な意味をもつ. <生体物質> シトクロムcの水溶液における超高速発光を初めて観測し,過渡的なQバンド発光と同定した.これにより鉄のd軌道への無輻射緩和は300fs以内に起こると解釈された.さらに数十psにわたって発光する成分も見出されたが,これはメチオニンが解離した状態に対応すると解釈された.これにより,従来発光が非常に弱いために解明が遅れていたシトクロムcの励起状態の緩和過程が明らかになった.
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