研究概要 |
シクロペンタン縮環型の高溶解性オリゴチエノキノイド分子の特性を活かしつつ,置換基の嵩高さ(立体障害)を低減する試みを以下の二つのアプローチで行なった. 1.ブトキシメチル基からメチル基への変更:従来のブトキシメチル基をメチル基に変更するために,モノマーの段階でメチル基をもつ新規チオフェン誘導体の合成法を確立した.このモノマーを順次多量化し,最高で六量体までの鎖長伸長に成功した。さらにこれらの化合物の末端α位をハロゲン化し,ジシアノメチル基の導入と酸化(キノイド化)を行い,最高で五量体までの合成に成功した.三量体の単結晶X線構造解析に成功し,結晶中では結晶溶媒を含むものの分子間相互作用が認められ,置換基の嵩高さ低減の効果が認められた.さらに,微結晶(粉末)試料を加圧成型し測定した伝導度は,ブトキシメチル置換体と比較して数桁の伝導度向上が認められ,鎖長の伸長に伴い伝導性も向上し,五量体において10^<-5>Scm^<-1>に達した. 2.ハイブリッド型誘導体の検討:アルコキシメチル基を持つシクロペンタン縮環チオフェンと無置換チオフェンを組み合わせたハイブリッド型誘導体の合成と物性の検討を,三量体を中心に行なった.ハイブリッド三量体は高い溶解性を保持しており,ブトキシメチル置換体の単結晶X線構造解析の結果,相互作用が回復できていることが分かった.微結晶(粉末)試料を加圧成型し測定した伝導度も大きく向上していた.さらに,高い溶解性を利用して,スピンコート法により作製した薄膜をチャネル層としたn型有機FETを試作した.移動度にアルキル鎖長依存性が見られ,ブチル基からヘキシル基へと炭素鎖を伸ばすことで移動度は向上したが,オクチル,デシルとさらに長くすることで移動度は低下した.これらの中では,ヘキシル誘導体が最も高い移動度となり,大気中での評価で0.2cm^2/Vsに達した.また,これらのトランジスタは大気中でも高い安定性をもち,さらに顕著な経時劣化も見られないことが分かった.
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