研究課題
基盤研究(B)
昆虫サイトカインGrowth-blocking peptide(GBP)は血球細胞の一種プラズマ細胞を活性化し、血球凝集塊形成反応や異物表面への付着を誘起する。アワヨトウGBPの構造-活性相関については様々な変異体GBPを用いて詳細な解析がなされているが、GBPによるプラズマ細胞活性化の情報伝達経路についてはほとんど分かっていない。本研究によって、私達は血球細胞のGBP受容体の性質を明らかにすると共に、分子量77kDaの新規GBP受容体アダプタータンパク質を発見した。P77 cDNAをクローニングし、一次構造を決定した結果、細胞膜を一回貫通する膜タンパク質であることが予想された。さらに、モチーフ検索により、その細胞内領域にはSH2/SH3ドメイン結合モチーフやimmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)様ドメインが存在することが明らかになった。これら同定されたドメインは,いずれも哺乳類の免疫関連受容体の多数のアダプター因子内に報告されているものである点は興味深い。P77はGBPと直接結合能力を持たないが、GBP刺激によって血球の細胞内領域チロシン残基は速やかにリン酸化される。P77のチロシン残基リン酸化は、血球細胞をEnterobactor cloacaeやMicrococcus luteusといった細菌で刺激した場合にも観察されるが、こうした病原微生物刺激によるプラズマ細胞のP77チロシンリン酸化は、血球から放出されたGBP前駆体が同時に分泌されるプロテアーゼによってプロセシングされて生じた活性型GBPによって誘起されるものであることを実証した。さらに、GBPによって刺激されたプラズマ細胞ではインテグリンβ1鎖のチロシンリン酸化が確認されたが、このチロシンリン酸化はP77のRNAiによって顕著に抑制され、さらに、プラズマ細胞の突起伸長活性化反応も阻害された。また、こうしたRNAiによってP77発現が抑制されたアワヨトウ幼虫では、グラム陰性菌Serratia marcescensに対する感受性が顕著に上昇した。以上のような一連の研究結果より、プラズマ細胞のGBP 細胞内情報伝達にはGBP受容体アダプタータンパク質P77が必須であり、P77を介するインテグリン分子のチロシンリン酸化がGBPによるプラズマ細胞活性化に不可欠であることが証明できた。
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