研究課題
基盤研究(B)
本研究は、我が国の特定地域において多発し、畜産業上も重大な影響を与えている和牛の遺伝性疾患である多発性眼球形成異常症の原因遺伝子をポジショナルクローニング法により同定し、その遺伝子診断法を確立するとともに、当該遺伝子の機能の解析を行うことを目的とするものである。これまでの研究において、本疾患の原因遺伝子をウシ第19染色体にマッピングし、この領域の染色体地図を作製している。また、発症牛では、眼の主要な構成要素である水晶体と網膜組織の異所性の形成が顕著であり、その結果、正常な眼の形態形成は完全に阻害されていることを明らかにしている。そこで、これらの成果の上に、本研究では以下の課題に取り組んだ。(1)多数の発症個体を用いた連鎖解析により、原因遺伝子がウシ第19染色体の約1.1Mbの領域に存在することを明らかにした。(2)さらにウシのゲノム情報等を用いて当該領域に存在するすべての遺伝子をクローニングし、その塩基配列の解析を行ったところ、WFDC1遺伝子に一塩基の挿入を見いだした。この一塩基挿入により、タンパク質の機能は完全に失われ、この塩基挿入は疾患の発生と完全に対応していることから、本挿入変異が疾患の原因となる変異であると結論づけられた。(2)WFDC1遺伝子の変異をPCR法により簡便かつ正確に検出する方法を開発し、本疾患のキャリア個体を同定するための遺伝子診断法を確立した。(3)WFDC1遺伝子のマウス眼球のおける発現を調べたところ、分化しつつあるレンズ上皮細胞や、網膜を構成する特定の細胞に発現が見られることから、本遺伝子は眼の発生に重要な役割を持つものと考えられた。以上のことから、眼球の発生に不可欠の機能をもつWFDC1遺伝子の突然変異により多発性眼球形成異常症が発生すること、本遺伝子の変異を検出することでキャリア個体の遺伝子診断が可能であることが明らかとなった。
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