研究課題
基盤研究(B)
本研究では、多彩な生物活性を有するアラキドン酸代謝物のうち、最も広範な組織で産生されるPGE_2を生合成する酵素mPGES-1に着目し、ノックアウトマウスを用いて病態との関連を解析した。1. mPGES-1と癌:mPGES-1を過剰発現した肺癌細胞株(LLC)をマウスに皮下移植すると局部腫瘍が増大し、静脈内投与すると肺転移が増加した。逆に、mPGES-1をノックダウンしたLLC細胞をマウスに投与した場合には腫瘍の形成が低下した。mPGES-1ノックアウトマウスにLLC細胞を移植すると、対照マウスと比べて腫瘍の進行と転移、およびそれに伴う血管新生が抑制された。さらに、mPGES-1ノックアウトマウスに発癌物質アゾキシメタンを経口投与すると大腸癌の発生が対照マウスと比べて顕著に低下した。2. mPGES-1と炎症:カラゲナンやチオグリコレートの腹腔内投与によって惹起される腹膜炎モデルにおいて、mPGES-1ノックアウトマウスでは炎症細胞の浸潤が対照マウスと比べて有意に低下した。3. mPGES-1と骨修復:大腿骨圧迫骨折モデルにおいて、mPGES-1ノックアウトマウスでは骨折部の治癒が対照マウスと比べて有意に遅延した。LPS投与や卵巣除去により誘導される骨量低下は本ノックアウトマウスと対照マウスの間で差が見られなかった。4. mPGES-1と消化管粘膜保護:デキストラン硫酸誘導大腸炎モデルをmPGES-ノックアウトマウスに施行すると、対照マウスと比べて大腸粘膜の損傷、炎症性サイトカインの発現が増悪した。以上の結果より、mPGES-1を特異的に阻害する薬物の創薬は新しい抗癌剤、抗炎症薬として期待される。一方で、骨折治癒の遅延や消化管潰瘍などの副作用が生じる可能性がある。
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