研究課題
基盤研究(B)
Rbヘテロ型欠損マウスは、甲状腺C(カルシトニン産生)細胞において、正常アレルの体性欠損により、C細胞腺腫(良性)を生じる。このマウスでN-ras遺伝子を追加欠損すると、Rb欠損C細胞腺腫が悪性転換する。RbN-ras二重ヘテロ型マウスに生じたC細胞腫では、Rbの正常アレル欠損に続いて、N-ras遺伝子座のLOHと悪性化が観察された。特定の遺伝学的背景において、N-rasが、がん抑制遺伝子様の挙動を示したということだ。本研究は、まず、N-rasの癌抑制作用の本態を明らかにすること、そして、ヒトのC細胞癌に該当する甲状腺髄様がん、とくにret癌遺伝子異常の比較的少ない散発性の症例で、N-ras遺伝子の異常を見いだすことが出来るかを検討することを主眼とした。N-ras野生型のRb欠損C細胞腺腫を詳細に解析したところ、多種のDNA損傷応答因子と、セネセンスマーカーの発現を観察した。これらはことごとく、N-rasホモ型マウスから生じた腫瘍では、発現消失していた。Rbパスウェイの異常は、ヒト発癌にほぼ必須のイベントだが、Rb遺伝子自身の突然変異は、限定された種類の癌でしか見つからない。我々の発見は、Rb遺伝子の失活が、N-ras依存的に、DNA損傷応答、セネセンスを誘導することにより、腫瘍が完に癌化することを妨げることを示唆した。また、RbN-ras両欠損細胞株と、マイクロアレイを用いた解析から、Rb欠失が、E2F依存的に、N-Rasの活性制御に直接関わる一連の遺伝子群の転写活性化を誘導することも突き止めた。これは、癌化に対抗する重要な生体防御機構のひとつと考える。一方で、ヒト癌の解析では、東京女子医大内分泌外科より、約20症例の提供を受け、免疫組織学的な解析を開始、ゲノム解析の為の予備的データを蓄積した。
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