研究課題
基盤研究(B)
我々は、膠原病モデルマウスMRL/lprのトータルゲノム解析を通じて、膠原病の病像が環境要因に影響されやすい複数の同義遺伝子からなるポリジーン遺伝形式をとる疾患であり、このポリジーンの組み合わせが病態・病理像の多様性を規定していることを示してきた。これらのポリジーンの実体を明らかにし、個々の病像の病理発生機序ならびに環境要因を解析するため、膠原病好発系MRL/lprと嫌発系C3H/lprマウス間の兄妹交配により、世界で初めての「組換え近交系(RI系)膠原病モデルマウスMXH/lpr」15系統を樹立した。このRI系マウスが経時的に病態、病理を解析し得る点、またそれらを人為的に任意の環境因子で制御し得る点を利用し、膠原病の病態と病理発生のプロセスならびに環境要因による促進・抑制機構をゲノムとの関連をもって解明することを目的とし以下の研究を行った。1)全染色体を対象にマイクロサテライトマーカーを用い、さらにSNPs解析を加えて、密度の高い系統間分布表(SDP表)を完成した。2)各系統毎に経時的に各病像の組織病理学的スコアリングを行い組織病理学的表現型のデータベースを完成した。3)SDP表と組織病理学的表現型データベースに基づき個々の病像を量的に規定する感受性遺伝子座を解析した。4)系統毎に多様な発現プロファイルを示す自己抗体の病因論的意義を明らかにするため、無細胞系タンパク質合成法とAlphaScreen法を組み合わせた自己抗体の網羅的探索法を確立し、いくつかの自己抗体が特定の病像発症と密に関連していることを見出した。5)環境要因が膠原病の発症・進展に与える影響をシミュレートするためdsRNAアナログであるpolyI:Cを投与し、TLR3シグナル伝達系を介した系統毎の病態感受性を解析した。その結果、特定の系統にのみ重篤な膵炎を発症することを見出した。また、全RI系統の脾細胞における炎症性サイトカインの発現プロファイルのデータベースを確立した。以上、新たに樹立したRI系MXH/lprから得た結果は、膠原病の複合病態が遺伝的に分離し得ること、そしてそれがゲノム多型に基づくポリジーン系遺伝形式に支配されていること、さらに特定の環境要因により修飾されることを、再現可能な近交系レベルで明確にした。
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