研究概要 |
チタン製インプラント表面の反応性は,表面形状や性状に大きく左右されることが知られている.とくにμmオーダの表面形状付与により細胞形態を変化させ,骨新生を向上させる試みがなされている.しかし,骨治癒の飛躍的向上にはナノ領域における分子レベルの精密な機能発現が重要である.これまで電気化学的手法によりインプラント表面にリン酸カルシウムを析出させる試みがなされてきたが,結晶が比較的大きく,反応性が低いため,生体高分子のスキャフォールドとして不十分であった.本研究により,リン酸カルシウムナノ微粒子による,チタン表面修飾技術を達成した.擬似体液中での液中放電により,リン酸カルシウム結晶の成長を抑制しつつ,結晶性の高いナノ微粒子をチタン表面に析出させることが可能となったためである.これにより生体系特有と見なされてきた,生体高分子との高次構造を人工材料であるチタン表面に再現することができる.即時負荷を目的としたインプラント体は高トルクで埋入されるため,インプラント体の表面の微粒子は埋入時に剥離しやすい.このため,即時負荷インプラントのコーティング層は数μm以下の厚さで母材と強力に接着していることが望ましい.本研究で開発した液中放電処理法は,処理中に新たに形成されたTiO酸化膜中にリン酸カルシウムナノ微粒子が傾斜的に析出するため,これまで市場で提供されている熱噴射による処理よりも,この点有効である.また本法は液中でインプラント体を電極とするため複雑な形状を有する現在のインプラント体表面修飾技術として適している.また,本処理によって得られたリン酸カルシウムナノ微粒子単体でも,硬組織再生に有用であることが明らかとなった.
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