研究概要 |
本研究では,構成的手法を用いて心の理論の創発に関する進化的基盤を理解し,それに基づくシステム構築のための知見を得た. 1)シグナリングに基づく交渉とゲーム戦略決定という2段階から成るモデルを設計し,進化シミュレーションを行った.譲る合図を示すタイミングで調停する「収束型」と両者のシグナルの共振で調停する「振動型」という2つのコミュニケーションが創発することが示された. 2)視線制御形質に基づく,読心と読心を前提とした他者操作の間の共進化に基づくコミュニケーション成立機構を検討した.進化シミュレーションの結果,コストにもかかわらず視線を動かすことの適応性が示された. 3)心の理論と密接に関連する表現型可塑性に関する進化シミュレーションの結果,原初的文法が2段階の進化(ボールドウィン効果)を経て創発すること,一般的な量的形質において3段階から構成される進化シナリオがありうること,多峰性の適応度地形においてボールドウィン効果が繰り返し生じ,高適応度を獲得することが示された. 4)心の理論の創発において利他性が必要条件となる可能性を考え,マルチレベル選択における集団構造の維持条件を検討した.進化シミュレーションの結果,環境応答移住と進化によって,少数の協力者からなるグループが拡がる創始者効果が相乗的に働くことや,環境悪化に特異的に反応して移住することが協力者と非協力者のグループを分離し,協力進化を促進することが示された. 5)具現化進化型ロボット実験システムに対して,制御器との共進化系としての先行評価系を導入して,心の原初的段階を検討した。プロトタイプ評価実験の結果,先行評価系による実評価個体の選別により低レベル個体の適応度評価を抑制しロボット行動を安定化することや,先行評価系も実環境へ適応するように進化していることが示された.
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