研究概要 |
本研究の目的は、公共図書館政策の決定と執行過程に関与するアクター間の認識をもとに,アクター相互の関係性を明らかにすることにある。現在の英国(イングランド)を事例に,次のような調査と分析を行った。 まず2006年度に、政策の実施過程のアクターを対象とした調査を行った。2006年8月に、GatesheadとSunderlandの図書館を対象に,サービス内容についての訪問調査を行い、合わせて図書館員に対するインタビュー調査を実施した。その結果,中央政府の政策は,図書館サービスの内容を決定づける要因として,それほど大きな影響力を持っていないこと,重要視されている政策文書は一部に限られること,政策実施手段として法的統制と財政的誘導が一定の効果をもたらしていることが判明した。次に2007年度には,政策の決定過程のアクターを対象とした調査を行った。文化・メディア・スポーツ省(以下DCMS),政策執行機関の博物館・図書館・文書館評議会,公共図書館に関する政策諮問機関である図書館諮問評議会をアクターとして同定したうえで,2007年8月に,それぞれの組織の担当者に対して,インタビュー調査を実施した。その結果,DCMSは,博物館、図書館、文書館評議会と図書館諮問評議会に対して,資金の供給や専門家としての助言などを通しての関係を保っていること,しかし実質的には,DCMSの公共図書館に対する監督権限は,自治体を統括するコミュニティ・地方自治体省に移行していることが明らかとなった。 以上の研究を通して,図書館政策の決定過程の中心アクターである中央政府は,実施過程の中心アクターである図書館に,一部の政策を通して影響力を保持しているが,一方で,中央政府のなかでは,担当省庁のDCMSの権限が縮小していることが判明した。
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