研究概要 |
本研究は、嗅覚の一次中枢嗅球における嗅覚情報処理の初段階の構造的基盤の解明を目的とし、次の二点を重点とした。1)ラット・マウスでの詳細解析と、2)モデル的な実験動物以外の比較解剖学的な解析。 1)正常マウスc57BLについては下の3点の新知見を得、マウス嗅球の基本構造の詳細を記載し、またラットと相違点を明示した。 a 嗅球糸球体内で嗅神経がコンパートメント構造を成し、嗅神経から入力を受けるタイプ1傍糸球体ニューロン(PG;TH陽性)と入力を受けないタイプ2PG(CB陽性、CR陽性)に分類され、これらについてはラット嗅球と同様であったが、GABAとの共存に関してはラットとは大きく異なっていた。 b マウス嗅球のNOS陽性細胞は多様であり、ラット等で報告されているPG,顆粒細胞,短軸索細胞,stellate cells等であった。更にラット等では未報告のexternal & middle tufted cellsの一部がNOS陽性であり、NOS陽性細胞の一部は嗅球外へ投射することを発見した。 c Ca結合タンパクparvalbumin(PV)陽性細胞は多様であり、ラットと同様な外網状層の中型細胞とラットでは存在しない大型の短軸索細胞等を含むことが判明した。この短軸索細胞の細胞体は、内網状層、外網状層、顆粒細胞層にあり、すべての軸索は外網状層に分布し、この細胞群は既存の回路に新たに組み入れる必要がある。 2)a ジャコウネズミに近い食虫目トガリネズミ(sorex)で、糸球体直下に小巣体が層構造をなし嗅球全体に分布することを確認した。小巣体は我々がジャコウネズミ等に発見した、新たな投射系(tasseled cell)の突起が限局する場であり、これにより、トガリネズミにおいても、第2の投射系の存在の可能性を示した。 b 嗅球の層構造についての文献検討より、食虫目の構成に近いと予測されたブタにおいて、免疫細胞化学染色を行ったが、小巣体は存在せず、tasseled cell系の存在も否定された。 以上により嗅球の形態的な詳細をげっ歯目、食虫目で報告する目的を果たすことができた。
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