研究概要 |
本研究においては,軟骨組織が常に曝されている静水圧負荷に対する細胞の応答を,単離された培養細胞,または破壊的処理により抽出した成分でしか評価できなかった従来の解析手法に代わり,細胞外マトリックス内に存在するin situにて評価する手法を確立することを目的とし,関節軟骨組織を表層・中層・深層の3つの領域に分類して軟骨細胞の間欠的静水圧刺激に対するCa^<2+>応答の違いを検討,また阻害剤を用いてCa^<2+>の導入経路を検討した. Ca^<2+>蛍光指示薬fura2によって染色した軟骨組織切片を静水圧負荷装置を用いて軟骨組織に間欠的静水圧を負荷し,それに応じた細胞内Ca^<2+>蛍光画像をARGUS Ca^<2+>解析システムに取り込み,解析した.細胞内Ca^<2+>濃度は(340nm励起光による蛍光量/380nm励起光による蛍光量)の比から予測した.軟骨組織に間欠的静水圧を5min負荷,その後10min無負荷状態にして,この15minの間にCa^<2+>濃度の一過性上昇を示したものを細胞の応答とみなし,軟骨の表層,中層,深層ごとに応答率を検討した.表層,中層,深層のいずれにおいても周波数0.2Hzにおいて最も高い応答率を示した.表層は5MPa,中層と深層は2MPaにおいて最も高い応答率を示した.細胞外液のCa^<2+>を除去したCa^<2+>free HEPES,機械刺激受容チャネルの働きを阻害するgadoliniumイオン,細胎内Ca^<2+>ストアの一つである小胞体内のCa^<2+>を枯渇させるthapsigargin,の3つの薬剤を個別に作用させながら軟骨組織に振幅5Mpa,0.5Hz周期の間欠的圧力を負荷した.Ca^<2+>free HEPES, thapsigargin, gadoliniumイオンとも細胞の応答率を下げた.この実験結果から軟骨細胞は静水圧刺激に対して細胞外液,小脳体,機械刺激受容チャネルからの流入が絡んだ応答を示すと考えられた.以上の検討より,軟骨組織切片自体にCa^<2+>蛍光指示薬による染色,静水圧負荷装置を用いることで、in situでの静水圧負荷およびCa^<2+>応答観察する解析手法が確立され,関節軟骨組織における生理的層構造の機能の違いを明らかにすることができた.この解析手法は軟骨の障害や再生軟骨組織の成熟度の評価法となり得ることが示された.
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