研究概要 |
Chin down,顎引き嚥下などと呼ばれひとつの肢位として扱われてきた頭頚部の肢位を,機能解剖学的に1)環椎後頭関節屈曲による頭頚部肢位,2)下位頚椎間屈曲による頭頚部肢位,およびその3)両者の屈曲である複合屈曲の3肢位に分類し,各肢位が口腔咽頭構造および嚥下動態与える影響の相違を明らかにすることを目的とした.平成18年度は,健常成人を対象,19年度は摂食・嚥下障害患者を対象に,この3種の異なる肢位の臨床的な効果の相違を検討した. [方法]対象は,咽頭残留および/または水分での誤嚥を認める摂食・嚥下障害患者8名.ビデオ撮影した嚥下造影画像およびビデオ内視鏡画像をPCに取り込み,画像解析ソフトを用いて,舌根-咽頭後壁間距離,喉頭蓋谷の広さ等の咽頭構造と嚥下動態の時間的,距離的側面を計測した.さらに誤嚥,喉頭侵入の状態,咽頭残留の状態を点数化した上で比較した. [結果]健常群の検討:1.舌根-咽頭後壁間距離,喉頭蓋谷,喉頭入口部は頭部屈曲位にて狭まるが,頚部屈曲立,複合屈曲位では差がなかった.2.嚥下運動へ影響では,舌根-咽頭接触時間に延長を認めた.その他の項目では肢位による差は認めなかった.患者群の検討:1.健常群と同様の傾向を認めたものの個人差が大きく有意な差はなかった.2.誤嚥,喉頭侵入,咽頭残留には明らかな差はなく,最も有効な肢位は症例によって異なった. [本研究の重要性・意義]これまで1つの肢位であるように考えられてきたChin downが複数存在し,それぞれ異なった効果があることが明らかになった.嚥下障害患者では,症例毎に最も有効な肢位が異なった.頭頚部肢位を機能解剖学的に明確に分類した上で,病態評価にもとづいて選択することの重要性が示唆された.今後,さらに病態と肢位を対応させるために多数症例での検討が必要性が示唆された.本研究は,嚥下訓練を精緻化し,臨床における安全性と効率の向上に貢献できたと考える.
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