研究概要 |
本研究の目的は、呼吸循環-筋運動リズム間のカップリング現象が呼吸循環制御系における効率最適化と関連しているかどうかを検証することにある。第一に、筋内圧変動を模擬したときに見られた循環系リズムと筋内圧変動間の同期現象が実際のリズミックな運動でも同じ原理で生ずるのかを実験的に検証し,位相同期現象を再現する数値モデルを開発すること、第二に、運動リズムと循環系リズム間に位相同期現象が見られたときに心拍リズムと呼吸リズムとの結合関係はどのような傾向を示すのかを調べること、そして第三に、変調現象と同期現象の間の関係を定量化することにある。今年度は,心拍-筋運動リズム間の同期現象を再現する数値モデルの開発を行い,また,随意的に心拍-呼吸-筋運動リズムが整数比で位相同期するよう誘導した実験を行い,生理パラメータの解析からカップリングを生じる身体システム制御規範を推察した。モデル開発では,心拍振動子と歩行振動子にFHNモデル振動子を用い,心拍振動子に位相反応特性を組み込むことで同期現象の発生を実現した。位相反応特性は,心収縮期に歩行振動子からの求心性情報が入力されると迷走神経活動が抑制されるという仮説を立ててモデルに組み込んだ。その結果実験と酷似した同期位相で心拍と歩行振動子が同期することを示すことができた。 実験では,心拍数が120/minになるようなトレッドミル上での歩行運動において,平均心拍数を被験者に呈示しながら呼吸リズムを随意的に歩行リズムに同期させると,心拍-歩行リズム間の位相同期が強化されることを見つけた。呼吸を一定のリズムの制御すると心拍-歩行リズム間の位相同期は減弱した。位相同期の強化は心拍リズムゆらぎと呼吸リズムゆらぎの減少を伴った。また,位相同期で酸素摂取量に対する換気当量が低下する傾向が認められた。
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