研究概要 |
本研究の目的は,状況判断,相手とのかけ引き,味方とのあわせといった戦術的な要素が指導場面で強調されることが多い球技スポーツにおいて,一流競技選手の持つ動きのコツ(「どのような感じで動くとできるのか」といった主観的な情報)をインタビュー調査し,(1)一流競技選手の持つ実践知を知識化すること,(2)実践知をジュニア期における球技選手の効果的な指導に役立つ知見としてまとめることであった。調査協力者は,国際レベルで活躍したハンドボール競技選手10名であった。主な研究成果は以下の3点であった。(1)ゴールキーパーの動きのコツをスポーツ運動学的な立場から検討した結果,一流競技選手の動きのコツは指導現場に有用な知見となること,動きのコツは選手間で異なるが,プレー理念は共通していること,動きのコツはプレー理念を具体化させる「手段」であること,一流競技選手の動きのコツを参考にプレーの改善を望むためにはプレー理念に共感する必要があることなどを明らかにした。(2)ゴールキーパーとシューターにおけるシュート局面の動きのコツを現象学的な立場から質的に検討した結果,個人戦術の実践知を明らかにする場合,個人戦術の最小単位は対峙する選手間の関係にあるととらえる必要があること,シュートの最終局面では,ゴールキーパーもシューターもリアクションの行為を志向していること,卓越した選手における個人戦術とは,対峙する選手と相互主体的関係を結び,間主観的に相手選手と「対話」しながら,行為の中で知を働かせ,その行為自体を変化させていくことができる前意識的な営みであることなどを明らかにした。(3)調査協力者の動きのコツの事例を冊子にまとめ,主にジュニア期の指導者に配布した。また,調査の一部をハンドボールの専門月刊誌で発表し,ジュニア期における球技選手の効果的な指導に役立つ知見を,広く実践現に提供した。
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