研究概要 |
本研究課題では,H18年度およびH19年度において,起立性低血圧に対する静脈血管の機能及び形態の関与に関する以下の4つの実験を行った。 1.下腿静脈コンプライアンス(VC)と起立耐性の関連性の検討:静脈閉塞プレチスモグラフィー法(VCPG法)と超音波Bモード法の二つの手法を用いて,下腿静脈コンプライアンス(VCp)と膝窩静脈コンプライアンス(VCu)の測定・評価手法を確立した。24名の被験者に,起立耐性試験の実施を行い,起立耐性とVCpとVCuとの関連性を検討した。その結果,下肢静脈伸展性とFCの増大は,起立性低血圧の直接の規定要因ではないことが示唆された。2.VCに対する虚血性前腕掌握運動の影響:虚血性掌握運動で筋代謝性受容器反射をひき起こした場合,VOPG法によって求めた下腿容積の減少やVCpの低下が認められた。しかし,膝窩静脈の血管断面積やVCuには変化は認められなかった。筋交感神経活動亢進による静脈血管収縮は,膝窩静脈のような中等の血管以外の小静脈や細静脈などで起こる可能性が示唆された。3.VCと毛細血管水透過性(FC)の関連性の検討:本実験では,容量血管であるVCが低い,つまり血管に血液を貯留する能力が低いほど,毛細血管での水分濾過が大きいのではないかという仮説を検証した。結果として,FCとVCp,およびFCとVCbの両者において,有意な負の相関関係が認められた。つまり,VCとFCには関連性があり,VCが低いほど毛細血管での水分濾過が大きくなるという仮説を支持する結果となった。4.下腿静脈コンプライアンスに及ぼす持久性運動トレーニングの効果:本実験では,片脚自転車持久性トレーニング(1回60分,10日間連続,強度は40%peakVO_2)の前後で,トレーニング肢と非トレーニング肢のVCpとVCbをトレーニング前後で比較したところ,トレーニング肢,非トレーニング肢ともに有意差は認められなかった。以上のことから,10日間連続という短期間の持久性トレーニングでは静脈の伸展性には影響を及ぼさないことが明らかになった。
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