研究概要 |
本研究では,超高齢社会を迎え,益々増加すると考えられる咀嚼や嚥下機能の低下した高齢者に適する食物について基礎的研究を行った。すなわち,様々な物性を持つ食物の刻みの程度,一口量および増粘剤付与の影響について,従来から行われている食品物性の測定および官能評価の手法に加え,近年導入されてきた咀嚼筋の筋電図測定を行うことにより検討した。 まず筋電図測定法の有用性を検討した。その結果,食物の官能的評価は,筋電図測定に加え物性測定も行うと73%程度可能であるが,筋電図測定だけでも70%程度可能であることが分かった。 そこで,食物の大きさと一口量の関係を,1食品(味付け大根)を用いて検討した。その結果,小さく刻むほどまとまりにくく食べ難いと評価され,一口量が多くなるほど咀嚼時間・咀嚼回数は増加するものの食べやすさは向上する傾向があることが示された。次いで,物性の異なる4種類の食品を用いて同様の検討を行った結果,食物の大きさと一口量の影響は,食品物性によって大きく異なることが確認された。 最後に物性の異なる食品を用いて,大きさの異なる刻み食への増粘剤添加の影響を検討した。どの食品もとろみを付与により食べやすいと評価され,その評価は刻みの程度が小さくなるほど高かった。しかし,筋電図測定の結果,どの食品もとろみの有無間では有意差がなかった。その原因を探るため,咀嚼物中の食片の粒度と咀嚼液の粘性測定を行ったところ,とろみ付与食品の方が食片の粒度が有意に大きかった。とろみを付与することにより,食片の周りに高粘液がまとわりつき,大きい粒度のままでも嚥下できるためと考えられた。
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