研究概要 |
断層が無傷(intact)な岩石中に発生し,時間とともに大規模な断層へと成長・成熟していく過程は,従来,様々な発達段階にある断層を比較研究することによって議論されてきた(たとえば,Wesnousky,1988;Stirling, et. al., 1996).しかし,これらの研究では大きく異なるtectonic settingと地史的背景を持つ断層を比較の対象とせざるを得ないために,断層の進化過程のみを明確に分離することが困難であった.本研究では,チベット高原南東部のKangding断層帯の活構造を調査することによって,上記の問題を明らかにすることを試みた. Kangding断層帯の中部は著しい屈曲を示し,これをショートカットして雁行配列する断層帯(Dalianshan断層帯とよぶ)が発達している.本研究では先ず,航空写真判読と現地調査によってDalianshan断層帯の精密なマッピングとこの断層帯に沿った変位地形の抽出を行った.その結果に基づき,変位地形の精密測量,変位を受けた地形の年代決定,トレンチ掘削による古地震イベントの復元等の調査を行った,その結果,以下のことが明らかになった: 1.Dalianshan断層帯の総変位量は3-7kmであることが分かった.同断層帯は,すべり速度が4mm/yr以上と推定されるので,活動開始時期は1-2Maより新しい. 2.Dalianshan断層帯は,多数の雁行するセグメントから成る.また,破砕帯の幅も数百m以下と小さい.これは,同断層帯が,破壊面の統合が進んでいない未成熟な段階であることを示している. 3.以上の結果から,Kangding断層帯中部では,断層線の大屈曲の成長に伴って,この屈曲部を短絡する新たな断層が発生するという地史的事件が,最近の地質時代(1-2Ma以新)に起こったと考えられる.
|