研究概要 |
湿地における環境汚染物質の動態把握および汚染物質の低減化や回収除去法の探索の目的で,環境試料中のウラン(U)・トリウム(Th)等の放射性物質,溶存有機炭素(DOC),多環芳香族炭化水素類(PAHs)の定量に加え,酸素安定同位体比(δ^18O)等の定期的測定を行った。さらに,各種汚染物質[トリチウム(T),U,Th等の放射性物質やクロム(Cr),ヒ素(As)等の重金属]の取り込みや吸着に関するモデル実験を行った。その結果,主として,以下のような知見を得た。 (1)新潟県内の降水中のREEs,Th,U濃度は冬季から春季にかけて高くなり,PAHs量は山間部において冬季に増加する傾向が見られた。またδ^18Oは梅雨期において低くなる。大気中のPAHs年平均濃度は都市部("新潟")で21ng/m^3,山間部("笠堀")で9.9ng/m^3であり,夏季と秋季においては差が顕著であった。(2)佐潟の環境水におけるδ^18Oは,他の県内の環境水に比べ,特に夏季において高いδ^18Oを示した。その原因として,周辺地下水からの影響や甲殻類のプランクトン等の生物作用に基づく同位体交換による影響が推定される。(3)海藻中のREEs,Th,U濃度は周辺海水中の濃度に比べて概して10^2-10^3倍程度濃縮しており,その濃縮係数は重希土類(HREE)の方が軽希土類(LREE)より大きい。U濃度は概して緑藻<紅藻<褐藻の順で,分析29種で最も高いU濃度を示したのは,Undaria pinnatifida(ワカメ)であった。一方,REEs,Th濃度においては,海藻門ごとの違いが明瞭に見られなかった。(4)フミン物質により,Cr(VI)が還元されることが確認され,その効果はpHの減少とともに大きくなる。フミン物質はCr(III)の錯形成にも関与しており,その効果はpH 5で最大になる。(5)T標識した物質と生態系に関連した官能基との同位体交換による基礎実験の結果,物質へのT取込みの程度を非破壊的・定量的に明らかにできることが示唆された。
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