研究課題
基盤研究(C)
本研究の初年次をなす平成18年度は、まず、能動的な意識による対象の「統覚(Apperzeption)」作用を原理とするカント(Immanuel Kant)の超越論的認識論を前提として「感情移入(Einfuhlung)」を理論的に基礎づけたリップス(Theodor Lipps)の心理主義的哲学の主張を中心に、意識の統覚作用、主客の志向的相関を前提とした感情移入における主客融合のあり方を、認識論的・心理学的側面から解明した。次に、感情移入の現象に対応する日本的な「もののあはれ」の意識について、本居宣長、ならびに、和辻哲郎、草薙正夫の主張に即して検討し、主客の対立・相関を前提として美的現象を説明する操作的な理論である「感情移入」に対して、「もののあはれ」は、存在の根源、根底的な自然から湧き上がってくる因果的な説明原理を欠いた端的なる感情であることを明らかにした。二年次(最終年次)に当たる平成19年度は、「感情移入」を、まず、メルロ=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty)の現象学的身体論と比較しつつ、認識論的・知覚論的側面から検討した。次に、ディルタイ(Wilhelm Dilthey)の「生の哲学」における「体験・表出・了解」ならびに「解釈」概念、および、ハイデッガー(Martin Heidegger)の『存在と時間(Sein und Zeit)』における「存在了解(Seinsverstandnis)」概念と比較しつつ、存在論的・実存論的側面から検討した。このような比較検討を通じて、感情移入が、主客融合・心身相関に基づいて体験と解釈とを綜合する存在了解として捉えられること、そして、それに伴って、感情移入の美学が、体験の心理と解釈の論理を綜合する存在了解の学として捉え直されるべきことを明らかにした。
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西田哲学会年報 第5号
ページ: 1-20
The Annual of Nishida Philosophy Society No. 5(undecided)
三田哲学会編『哲学』 第118集
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110007409503
Philosophy, edited by Mita Philosophy Society No. 118
Corners of the Mind Classical Traditions, East and West, edited by Neil B. McLynn, Sumio Nakagawa, Taro Nishimura, Keio University Press
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