研究課題
基盤研究(C)
マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の第六巻『消え去ったアルベルチーヌ』にかんするタイプ原稿の新資料を、発見者N・モーリアックが「作者の手をへた最終稿」と主張したことにたいし、従来から疑問を呈し、雑誌『レ・ズーヴル・リーブル』のための抜粋として用意されたもの、もしくは死の一ケ月前の作者の精神的・肉体的異常な状態に鑑みて、「最終稿」とはいえないとするのが筆者の立場である。もしモーリアック説が正しければ、「無意志的記憶」と「忘却」のテーマが物語のなかで完結しなくなる。この考えに沿って、これらのテーマが第六巻にいたるまで、作者によりどれだけ周到に布石として準備されたかを主として第4巻の『ソドムとゴモラ』のなかの一場面(アルベルチーヌが主人公にヴァントゥイユ嬢の女友達との関係を告白する)を分析した。その結果、プルーストは清書原稿の段階で、亡き祖母にたいする罪悪感を吐露する言葉を加筆したことを知り、物語の前の部分の無意志的記憶の「心情の間歌」の場面がより密接に繋がり、第六巻の『消え去ったアルベルチーヌ』のなかでの話者の告白(<私>は祖母とアルベルチーヌを殺してしまった)にいたる意味が明らかになった。また作者の実人生のなかで、「忘却」のテーマをいつ発見したかと研究した。1905年の最愛の母親の死に際しては、一年たっても忘却という文字はほとんど書簡ではみられなかったのにたいし(まだ社交界のスノッブを脱しきれていないプルーストがいた)、1914年の愛人アゴスティネリの死からは、このテーマを発見した経緯を調べた。そこには第一巻の『スワン』を出版した、冷静におのれの内部を観察できた小説家プルーストが存在したのである。以上の点を二回にわたり学部の紀要に掲載した。
すべて 2008 2007
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 3件)
早稲田大学政治形学部「教養諸学」 124
ページ: 69-83
120003142835
Journal of Liberal Arts, The school of Political Science and Economics, Waseda University No.124
ページ: 66-83
早稲田大学政治経済学部「教養諸学研究」 第124号
早稲田大学政治形学部「教養諸学」 122
ページ: 63-78
Journal of Liberal Arts, The school of Political Science and Economics, Waseda University No.122
教養諸学研究 122号