研究概要 |
研究代表者の森澤(独語史専門)と研究分担者の柳(英語史専門)はそれぞれドイツ語または英語における関係詞の体系の展開を調査し,言語変化をもたらす社会的要因をさぐった. 英語のwhichと同じ語源を持つドイツ語の関係詞welcherが19世紀とは異なり,現代ではほとんど使用されないことに着目した森澤は,その出現頻度を19世紀初頭に成立したGoetheの文学作品,私的書簡,学術論文に関して調べた.その結果,学術論文に比して残る二者ではwelcherの出現頻度が低いことから,Goetheがwelcherを荘重な文体手段の一つと意識し,テクスト種に応じて使い分けていた可能性を明らかにした.それにより,社会言語学的な観点から行なわれた先行研究の記述に,「テクストの種類を顧慮して文体手段の割合を加減する感覚」という点から新たな解釈を付け加え,19世紀におけるwelcherの後退過程をより精緻に説明する仮説をたてた. 柳は関係詞which(WH関係詞)の起こりと伝播を社会言語学的に説明しようと試みた.まず,古英語(AElfricのCatholic Homilies(CH))の関係詞が12世紀の「切り貼り式」homiliesにどのように引き継がれたかを観察し,WH関係詞がCHに対応しない箇所に現れることから,CH以外から取り入れられ,他のOEテクストにはすでに少数存在していたと指摘した.さらに,12-16世紀のテクストの用途と対象を考慮に入れながら,thatとWH関係詞の頻度とそれらが前置詞を伴う構造を調べたところ,TH関係詞とWH関係詞が前置詞を伴う割合は,極めて対照的に推移することがわかった.そこから、統語上の必要性に加えて,ラテン語・フランス語から翻訳されたsermonが,which(WH関係詞)保持に重要な役割を果たしていたと論じた.
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