研究概要 |
本研究は、議論という行為に焦点を当てる。日本人の議論は、実際どのような構造上の特徴を持つのかを明らかにするのがこの研究の第一の目的であった。同時に対人・異文化コミュニケーションの知見に基づきモデルを構築し、その検証を通じて議論の構造上の特徴はどのような要因によって説明できるのかを実証的に明らかにするのが、この研究の第二の目的であった。 18-19年度の研究で明らかになった点を以下にまとめる。 (1) 議論のスクリプトは鈴木(2005,2006)のコーディング規則によって正しく記述可能であることがほぼ確認できた。複数のコーダー間でのコーディングの信頼性も概ね.8以上と高い結果が得られている。 (2) 議論の構造の記述は大きく分けて、次の通りとなる。(1)水平のミクロ構造(鎖状chainの水平構造と放射状spokeの水平構造。部分的な、理由付けではない説明の深さに相当する。)、(2)垂直のミクロ構造(複合的垂直構造compoundと連続的serial垂直構造。部分的な、理由付けの構造に相当する。)、(3)マクロ構造(漸層的-漸降的、水平的-垂直的。議論全体の構造に関係する。) (3) 日本人では、話題への関心が高い人ほど複雑な垂直のミクロ構造を使用し、議論志向性が高いほど漸降的なマクロ構造を用いることが分かった。また、話題への関心が垂直的マクロ構造の使用とおよび議論の長さを予側するにあたって、議論への関心は仲介変数としての役割を果たしていることも分かった。ただ、米国人に関しては議論志向性が連続的垂直のミクロ構造を予側したにとどまったことから、提案されたモデルの文化間の差が判明した。 (4) 文化と独立的自己観や議論志向性は関係があり、議論志向性は話題への関心と関係がある。従ってこれらの変数が議論の構造を一部決定付けており、それが議論構造の文化差の一因となっていることが推測される。
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