研究概要 |
著作権保護と表現の自由との関係については,一方でデジタル化・ネットワーク化による情報発信が容易になり現の自由を促進しており,他方で保護期間延長,技術的保護手段によるコンテンツのプロテクトなど権利強化が進み,表現の自由との緊張関係も主張されている。そのような中で,本研究では,憲法学と知的財産法の双方から考察を行なった。 従来,著作権法の領域における差止請求権は,表現の自由の「聖域」とされてきた。しかしながら,憲法学においては,事前抑制は極めて限定した局面でしか認められていないにも関わらず,著作権法は予防的差止め(著作権法112条)も広範に認めており,創作性や権利制限などの著作権法内在的な安全弁のみでは,規制的側面が強すぎるのではないかということである。 憲法学の観点からは名誉毀損,プライヴァシー保護等の領域とも比較対照しながら検討を進めた。知的財産法の観点からは権利制限規定(フェアユース)の機能,技術的保護手段の持つ表現抑制的効果等も含めて検討を進めた。 考察を行なう際には,いわゆる「法と経済学」の観点を重視している。知的財産法がビジネスローの一部である以上,表現の自由による規制と,それがもたらす市場への影響を考えると,できる限り市場に対して中立性を保てる規制手段が用いられるべきであろう。いかなる場合には,差止請求権ではなく,対価請求権が望ましいのかということについての検討に重点を置いた。最終的には,双方の知見を総合する形で研究成果を取りまとめることを目指した。
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