研究概要 |
本研究は、バブル崩壊以降の日本経済の長期停滞の重要要因のひとつと考えられる生産性と効率性の問題を、新しい手法によって分析することを目的とした。標準的な全要素生産性(Solow残差)の方法は、生産者が完全に効率的であることを仮定する点で、長期停滞期の分析法としては適当ではない。効率性を考慮する場合も、従来の効率性分析は技術効率性の計測にのみ集中して、配分効率性を計測することはあまり行われてこなかった。特に、日本経済を対象にした研究でそれが顕著であるが、長期停滞の原因として資源配分の歪み(配分効率性)が問題にされる以上、それも適切なことではない。そのため本研究では、トランスログ型距離関数を推定して技術効率性と配分効率性を共に計測する方法を提示した。二つの効率性の大きさは、互いの比較可能性を保証するため、それぞれ完全に効率的な状態を達成できたとしたら削減可能な費用の大きさで測る。同種のモデルを最初に用いて分析したのはKumbhakar and Wang(2006), J. of Econometrics,419-440。であるが、われわれの方法は距離関数の変換を工夫して、配分効率性の計測に必要なインプットの最適値を求める非線形計画問題の数値解法を単純化している。実証研究として、第一に47都道府県の県民経済計算データによりマクロレベルの生産性・効率性分析を行った。その結果、平成金融恐慌を契機に雇用調整が急速に進みはじめ、配分効率性が改善される様子を定量的に捕らえることができた。第二に、9電力送配電部門のパネルデータを対象にした研究で、90年代後半の規制緩和開始期に費用効率が改善されていることが明らかになった。第三に、一般廃棄物処理事業組合(特別地方公共団体)のクロスセクションデータを用いてその生産性を分析し、公共セクターの評価に効率性分析の手法が有用であることを確認した。
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