研究概要 |
本研究課題ではPOSデータを用いたミクロ計量経済分析を行い,経済主体の意思決定・行動を実証的に考察した。具体的には(課題1)食品のPOSデータを用いた個別店舗の価格設定とその店舗内におけるブランド間の競合性に関する研究,(課題2)音楽CDのID付POSデータを用いた消費者の購買意思決定に関する研究の2つの課題に取り組んだ。研究期間中に,既存研究の展望論文および課題1の準備となる論文を執筆し,書籍『マーケティングの革新的展開』の第9章と10章にまとめた。第10章の論文の出発点は店舗別に分析すると,安定したパラメータ(価格弾力性など)の推定値が得られないということである。この問題は階層ベイズモデルを使い全店舗のデータを同時に用いて推定することで克服できることを示した。続いて,課題1に取り組んだ。これについては現在,学術雑誌に投稿準備中である。また,課題2の成果を学会報告し,Proceedings(査読付)に公刊した。この研究では顧客の音楽CDの購買枚数は予算制約付効用最大化の結果として決まると定式化し,それに基づいて個別顧客の音楽ジャンルに関する選好パラメータをベイズ推定した。そして,カテゴリー・マネージメントとして店舗で扱う音楽ジャンルを減らすが,そのお詫びのためのクーポンを顧客に配布するという仮想的な計画を考えた。クーポンの金額は,推定結果に基づき効用をできるだけ維持するように顧客別に設定した(ただし,上限を3000円とした)。その結果,クラシックジャンルを削減する場合,11円のクーポンで十分な顧客もいれば上限の3000円のクーポンが必要な顧客もいた。クーポンの平均金額は476円だった。
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